「遊び」に興じるつくり手たち ——ROUND TABLE 2020 レポート②
2021.03.08 / REPORT
今回のレポートでは、12月に行われた「ROUND TABLE 2020 中間発表」の様子をお伝えします。3組の工場とクリエイターのチームが「遊具-遊び心をくすぐる-」というテーマに向き合い、制作へ向けたコンセプトを発表しました。他チームの発表に対して、まさに「円卓を囲む」ように、参加メンバーがその印象や共感、自身の経験談をシェアする楽しく知的刺激に溢れた会となりました。
前回のレポート:「回帰する『技術と芸術』-ROUND TABLE 2020 レポート①」はこちらから
遊びとは「無駄」なもの
金子未弥さんとハタノ製作所・波田野哲二さんのチームの発表では、制作物のコンセプトやアイデアについて「他チームからの意見も取り入れたい」と、オンラインツール”miro”を用いて、波田野さんが10月から活動拠点としている大田区京浜島についてのリサーチが紹介されました。
このチームではまず、お互いの持つ「遊び」というものに対してどのようなイメージを持っているかを話し合ったようです。
波田野さんはゲームが趣味で、「どうぶつの森」にハマっているとのことでしたが、金子さんからすれば「正直、何が楽しいのか分からない」ゲームで、「時間をかけてすごく無駄なことをやっているな」という印象を抱いたそう。
一方、波田野さんも金子さんが趣味で朝ランニングをすることに「それって疲れちゃうし、体力の無駄では?」と思ったそうです。
それでもお互い幼少期にLEGOで遊んでいたことなど共通点もあり、盛り上がった話の中から、遊びとは「”無駄”なもの」という共通認識を得たとのこと。
その後、波田野さんの拠点である京浜島にて、作業場の見学やフィールドワークを繰り返し、工業団地である京浜島は、「働く場所で無駄がない=遊びがない、まるで機械のよう。」という印象を得たとのことでした。
しかし、そんな京浜島でも、愛想の良い女性がいる食堂や作業服を着てバドミントンをする人がいる体育館など、働く人の憩いの場もあることが分かり、猫に餌をやる人や道で井戸端会議をする人々を見たりと、「無駄=遊び」を感じる場面も多くあったそうです。
波田野さんからは以前の職場でできなかった工場見学も、一見すぐには案件やメリットに繋がらない無駄なことに見えるかもしれないが、「何かに繋がると思ってやっている」という、工場見学についての熱い思いも語られました。
<会場からのコメント>
・「京浜島は機能的すぎて楽しくない。実家の新興住宅街もグリッドで歩いていて楽しくない。蒲田は楽しい。」
・「普段行く機会が無いので京浜島の非日常感にはワクワクする」
ものづくり神経を養う遊具
エヌアンドエヌ米竹真央さんとCekai小松健太郎さんは自分たちのチームに”NCs”という名前をつけたようです。 「No creationな人はNo claimよね」というものづくりへのリスペクトが込められたチーム名です。
NCsの発表は、相互理解から始まり、外部へのリサーチを経て、そこから自分たちのコンセプトがどう生まれたかを伺い知ることができるプレゼンテーションでした。
米竹さんと小松さんの軽妙なやり取りが「高校生の部活みたいなテンション(会場発言)」で繰り広げられ、終始笑いが絶えない発表となりました。
「遊び」で言うと、米竹さんはゲーム制作の専門学校でプランナーの勉強をしていたほど筋金入りのゲーマーで、特に「ストリートファイター2」のような格闘ゲームが強いという意外な一面を持っていました。
議論を繰り返すなかで、米山さんと小松さんの役職はそれぞれ「営業」と「プロデューサー」であり、「会社の外と繋がりをつくって仕事」をする点で共通しているという認識を得たとのこと。2大遊具メーカーへ米竹さんの「プロ営業メール」でヒアリングを打診したところ、両社から電話にて快諾の連絡があり、遊具についての様々な知見が得られたそうです。
遊具メーカーへのヒアリングから、「成長」という言葉がNCsのお二人の心にに深く刺さったとのことです。
「遊具は公共物で、身体的な成長を促すもの」でありながらも、現代の子供の運動レベルが著しく低下しているということから、子供の課題感を大田区の製造業の課題(技能不継承・製造自動化で失われる職人技)と関連付けて、
「ものづくり神経」を養う遊具というコンセプトが発案されました。
「ものづくり神経」とは具体的に何だろう?という問いに対しては、米竹さんがお付き合いのある工場の職人さんへのアンケート調査を行い、子供のどのような感覚を養うべきかをリサーチをもとに考えたそうです。
小松さんが携わる別案件のエンタメプロジェクトの話や、米竹さんとの金属談議など、ROUND TABLE以外でも今後連携できそうな期待感が生まれたと二人とも言っていました。
<会場からのコメント>
・「大田区の公園課と話してクレームが多いと知った。実際それで安全な遊具を除いていった結果、子供が弱体化しているのは問題。『適度な危険』は必要。」
・小松さん「カレンちゃん(米竹さんの4か月の愛娘)は危険な目に遭わせたくないよね?」
米竹さん「(ウンウンと頷く)」(会場一同笑)
偶然か必然か、「遊びはトライ&エラー」
ムソー工業・尾針徹治さんと灰原千晶さんのチームは、映画『タイタニック』の題材である客船沈没事故を例に挙げてプレゼンテーションがはじめられました。
タイタニック号の沈没の大きな要因は金属特性によるものであり、「これは当時の科学技術では解き明かされていなかったこと」と、金属の専門家である尾針さんから解説がありました。温かい海から冷たい海(熱疲労)→波(応力・海水の腐食)→衝撃(座礁・鉄板の脆性破壊)→リン(当時の製鉄技術では不純物のリンが多かった)、これらが沈没の要因になったとのこと。
また、灰原さんからは中学生の時に『現代美術面白い』と思ったきっかけの作品として、ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスの《事の次第/The Way Things Go》(1987)が挙げられました。
この2つの例に共通するのは
「全然繋がっていないと思えることが実は繋がっている」
「自分の計り知れないところで必然的に連鎖反応が起こっている」
「自分の判断一つが何かへ影響を及ぼす可能性がある」
という気付きです。
ムソー工業は試験片を製造する工場で、研究機関が行う「隠れた法則を見つけ出す作業」を支える存在です。長年にわたり試験片が活用されてきたことは「人類と金属の歴史」の積み重ねであると言えます。
「法則というルールの中で、どのようなことができるかを考えることが”遊び”」
「学者の仮説外の結果が起こることもある」
「遊びはトライ&エラー」だというキーワードが出ました。
長い歴史の中で発見された金属の自然法則を活かしてつくられるキネティックアート(自然力、動力、人力で動く作品)的なものができる?雰囲気でした。
<会場からのコメント>
・「成分や要素の視点からはじまるのはこのチームの特徴で面白い。」
・「問いがさらなる問いを生む二人の対話自体が”遊び”」
展示・成果発表に向けて
「遊び」や「遊具」というのは、誰しもが無意識のうちに触れてきたものであると思います。
今回、3組のクリエイターと工場がその「遊具-遊び心をくすぐる-」というテーマに向き合い、三者三様に意識し、解釈し、イメージを形にして、大田区から世に出します。
ある意味では、その思考や制作の過程すらも「遊び」であり、その手で動かした製造機械すらも「遊具」であったのかもしれません。
子供が遊びから多くのことを学ぶように、今回のROUND TABLEで集まったつくり手たちも「遊び」の中から多くのことを学び、これからの日々の営みの糧とすることでしょう。
中間発表から瞬く間に時は経ち、いよいよROUND TABLE 2020の展示発表が近づいてきました。
展示では作品は勿論のこと、制作プロセスについても、企画の大きな成果としてキャプションや制作者自身によるオープニングトークの形で公開されます。
また、ROUND TABLEのクロージングトークとして、クリエイティブの最前線で「遊び心」を胸に活動されている明和電機の土佐信道さんと株式会社ロフトワークの林千晶さんのお二方をお招きしたイベントを開催いたします。
この未曽有のパンデミックの最中、本企画も一度は会期の延長を余儀なくされた上で、まだまだ予断を許さない状況での開催となります。
しかしながら、この一年余りで私たちはアートやプロダクトがいかに生活を豊かにできるかを知りました。また一方で、多くのクリエイターや工場がものをつくり続けること自体が難しい状況に陥り、お客さんや見せる場を失い苦労してきたことも事実です。
このような状況下でROUND TABLE 2020の展示を開催することは、大きな意義を持つのではないかと思います。困難の中でも歩みを止めないことで生まれる希望があるのだと、また、このような時だからこそ「遊び心」を忘れずにいようと、多くの方々と共感できる機会をつくれればと思います。
展示情報はこちらから:https://www.rt-kamata.com/
文:Counterpoint/瀧原慧