コロナ禍にKOCAで生まれた新しいものづくりの動き

2020.07.28 / REPORT

KOCAでは、新型コロナウイルス感染症によるコロナ禍の状況のなかで、新たにものづくりの動きが生まれています。

KNT365による3Dニッティングで編まれたマスク

D1スタジオにオフィスを構えるKNT365は、「3Dニッティング」と呼ばれるデジタルデータを編み物として出力することができる機材を用い、さまざまなプロダクトを国内で生産・販売しています。

鞄や靴を生産していた経験から、KOCA入居のタイミングで新たにKNT365として起業し、大阪に自社工場を構えたそうです。

コロナ禍においてマスク不足が叫ばれはじめた頃、3月中頃にはプロジェクトを開始し、4月にはwebサイトを中心に販売を開始しました。

KNT365によるニットマスク「SIBLINGS」は、環境に配慮した繊維を用いて、3Dニッティング機で一体的に編まれています。

洗濯すれば繰り返し使用でき、また無縫製のため、素肌に優しくフィット感も優れています。

生産量に限りがあるため、まずは地元で販売できないかと考え、KOCAを運営する@カマタに協力を依頼し、@カマタが地元商店街にかけあうことで梅屋敷商店街内5店舗での販売が実現しました。

商店街での販売は好調で、現在はwebショップにて9色展開で販売中です。


Webショップで販売中(1320-1980円)
https://knt365.thebase.in/


W HIROKO PROJECT

KOCAで定期開催しているアート展示企画OAA(Ota Art Archives)がきっかけとなり、新しいコラボレーションが生まれています。

大田区出身の服飾デザイナー・伊藤弘子さんと、現代美術家・岡田裕子さんによるコラボレーション「W HIROKO PROJECT」もその一つです。

もともと協働のきっかけをさぐっていた二人が、コロナ禍の状況をきっかけに「感染」をテーマにした作品作りとしてマスクをつくろうというところからスタートしました。

コロナ関連で生み出されるプロダクトのほとんどは、人々を隔て、遠ざけるものになってしまっている。

そのことに違和感をおぼえた二人は、逆に人と人をつなげるきっかけになるものとして、このマスクづくりプロジェクトを「TSUNAGARU MASK」と名づけました。


「DOUBLE HIROKO」webサイトのトップページ
https://www.w-hiroko.net/

「TSUNAGARU MASK」は、香港のクウォン・シーサン化学博士が開発した「HK Mask」の型にアレンジを加えてデザインされています。

布地には遠州産地の機屋による生地を使用し、生地生産から縫製、プリントにいたるまですべてを国内で生産しています。

製作者たちの顔が見える、サステナビリティとトレサビリティを意識したものづくりが目指されています。


岡田裕子さんによる抗体をモチーフとしたドローイングからプリントパターンをデザイン

マスクの次は防護服やドレスなどの構想と制作です。

3月7日からKOCAギャラリーにて開催されていたOAA#2「東恩納裕一」展に訪れた伊藤さんは、カーテンの写真作品と蛍光灯を組み上げた立体作品からなる空間からインスピレーションを得て、ドレスの製作を開始。

空間を撮影した写真がインクジェットプリントで生地に印刷され、大胆な柄として防護服のデザインに取り入れられています。こちらも生地、プリントともに完全国内生産です。

今後、展示会などでの発表を検討中とのことです。


KOCAギャラリーで撮影されたドレス、OAA #2 /東恩納裕一展とのコラボレーション

photo: norizumi kitada
アートワーク・イメージの提供:2020 yuichi higashionna
©︎ W HIROKO PROJECT×HISUI HIROKO ITO


KENT CHAPMANによるフェイスシールド

最後はフェイスシールドです。

背景として、コロナの影響で海外からの大量生産品の入荷がストップするなかで、世界中のFAB界隈がその供給を一時的に補おうとする動きがありました。

マスクやフェイスシールド、衝立などをデザインし、その3Dデータをオープンソース化し共有することで、材料や運搬が止まったとしてもある程度の生産能力を維持しようとする試みです。

とくにフェイスシールドは、マスクにくらべるともともとの生産ロットが少なく、医療従事者のあいだでその不足が叫ばれていました。

デジタルファブリケーションを備えたシェア工房をもちクリエイターが多く入居するKOCAでも、この動きに連動してフェイスシールド制作の動きが生まれています。

入居者の一人で株式会社KENT CHAPMANを主宰する中村真太郎さんは、「すこしずつでも、ちょっとずつでも、つくりたい人がつくれるように」との思いで、レーザー加工機のみで誰でも制作可能なフェイスシールド・データを考案し、自社のwebサイトで公開するとともにインターネット販売を開始しています。

バンド部分にもポリプロピレン材を使用することでレーザー加工機で切り出しが可能になっています。


株式会社KENT CHAPMAN によるフェイスシールド


3Dデータ:https://kechap.jp/wp-content/uploads/2020/04/craft-face-shield-right-ver.1.0.pdf
インターネット販売:https://kentchapman.theshop.jp/

ほかにもKOCA入居者がNY市が公開するフェイスシールドを改良してより丈夫で生産性の高いものを開発するなど、シェア工房を中心にさまざまな試みが生まれています。

このように、KOCAでは日々、新たなコラボレーションやものづくりが生まれています。現在も、町工場とクリエイターが共同でプロダクトを開発している最中です。これからもKOCAをプラットフォームに生まれる新たな試みを発信してまいりますので、どうぞご期待ください。

(文・和田隆介)